インタビュー | ダンスシンドローム

一人ひとりを知ることから、役割と挑戦が育っていく

話を聞いた人:Sophie Tickle (Artistic Director), David Darcy (Dance Artist)
実施日:2026年3月4日(Sophie Tickle)、3月6日(David Darcy)

ダンスシンドロームでは、
インクルーシブダンスを
「特別な活動」として考えていません。
一人ひとりが、自分に合った関わり方や役割を
見つけていく場として考えていました。

まず、楽しく踊るための入口があります。
そして、その先に、
教えること、
出演すること、
振付すること、
作品づくりに関わることなど、
次の役割があります。

コミュニティダンス。
アーティスト育成。
ダンスリーダー育成。
創作プロジェクト。
それぞれが別々の活動ではありません。
一人ひとりの歩みを支える、
つながった場として考えられていました。
その中心にあったのは、
「参加者」として、ひとまとめに見るのではなく、
まず一人の人として知ることでした。

一人ひとりを知ることから始める

Sophie が大切にしていたのは、参加する人を、
障がいの有無や支援の必要だけで見ないことでした。

まず、その人が何に関心を持っているのか。
何を楽しむのか。
どんなことに不安を感じるのか。
どこへ向かいたいと思っているのか。
それを知ることから始めます。

さらに、その日の体調や気分、
家族や支援者との関係もふくめて、
その人がどのように場にいられるのかを見ていきます。
ダンスシンドロームの関係づくりは、
そこから始まっていました。

「私たちにとって大事なのは、
人とのつながりと、一人ひとりの重要性です。
まずその人を個人として知ること。
その人の関心、
情熱、
どこへ向かいたいのか、
あるいはその日その場で
どう在るのかを見ることです。
正しい動き、
間違った動きはありません。
どんな動きにも、
その人ならではの美しさと意味があります。」

ここでいう「個人を知る」とは、
本人だけを見ることではありません。
家族や支援者、そしてその人を支える
周りの人たちとの関係もふくまれています。
言葉で伝えることが難しいときでも、周りの人が、
その人の状態や関わり方の手がかりを持っていることがあります。

ダンスシンドロームにとって、
インクルーシブであることは、
決まった方法に人を合わせることではありません。
その人がどう動くのか。
どう関わるのか。
どう場にいられるのか。
それを、周りの関係もふくめて
見ていくことから始まっていました。

「同じ機会」ではなく、それぞれの道を考える

ダンスシンドロームでは、
毎週水曜日に「アーティスト育成プログラム
という継続的なプログラムがあります。

参加者は、一年を通して集まります。
踊ること。
表現すること。
リーダーシップをもつこと。
振付すること。
そうしたことを、少しずつ学んでいきます。
時期によって、上演に向けて準備することが
中心になることもあります。
リーダーシップや振付に、
重点が置かれることもあります。

iCreate” のような短い集中型の創作プロジェクトもあります。
でも、それは急に始まるわけではありません。
日々の関係や経験の積み重ねがあり、
その上に新しい挑戦が重なっていきます。
ここで大切にされているのは、
時間をかけることでした。

「知的障がいのある人たちと働くとき、
時間はとても重要です。
私たちは長いリハーサル期間が必要だと考えています。
数か月かけてゆっくり取り組むことで、
動きがからだに馴染み、
ダンサーたちが自分たちのつくっているものや
上演するものに安心していられるようになります。」

時間をかけるのは、
全員を同じ方向へ進ませるためではありません。
以前は、すべての機会を全員に開くことが大切だと考えていたそうです。
でも今は、その人が何を望んでいるのかを、
一緒に考えるようになっていました。

「以前は、一人ひとりにすべての機会を
開くことが大事だと考えていました。
でも今は、
それが必ずしも正しいとは限らないと分かってきました。
みんなそれぞれの道を進んでいるからです。
教えたいのか、
踊りたいのか、
振付したいのか、
ツアーに出たいのか。
それとも水曜日のプログラムに来るだけで十分なのか。
本人と一対一で話しながら、
その人に合った進路を考えていきます。」

ここで大切なのは、
同じ機会を同じように渡すことではありません。
本人がどこへ向かいたいのかを、
一緒に確かめることでした。
踊る。
教える。
振付する。
ツアーに出る。
毎週の場に通い続ける。
それぞれに違う進み方がありました。

Co-leadership は、関係から育つ

ダンスシンドロームの大きな特徴の一つが、
Co-leadership model (共に導くモデル)です。
ダンスアーティストとダンスリーダーが、
協力して一緒に場をつくります。
ここでいうダンスアーティストは、
場全体を組み立て、
進行や創作を支える専門家です。
ダンスリーダーは、
知的障がいのある当事者として、
自分の経験や関心をもとに、
いっしょに場を導く人です。
Sophie は、この仕組みを
「活動の心臓部」のようなものだと話していました。

「私たちの Co-leadership model は、
活動の心臓部のようなものです。
でも、それはセッションによって、
まったくちがって見えます。
なぜなら、それぞれのダンスアーティストと
ダンスリーダーが築いてきた関係によって、
場の質が変わるからです。」

これは、ただ二人一組で進めるという
意味ではありません。
誰と誰が組むかによって、
場の雰囲気は変わります。
落ち着いた場になることもあります。
遊びや即興が強い場になることもあります。
その違いは問題ではありません。
関係から生まれる個性として
受け止められていました。

大切なのは、この co-leadership が、
マニュアルだけではなく、
時間をかけて育つ関係に支えられていることです。

ダンスアーティストは、
ダンスリーダーの得意なことや関心を知っていきます。
ダンスリーダーも、
自分の役割を少しずつ広げていきます。
ダンスシンドロームでは、
リーダーシップは一人が持つものではありません。
関係の中で分け合いながら育っていくものでした。

主導権を返しながら、高い水準へ向かう

David の話から見えてきたのは、
ダンスシンドロームが「楽しく踊る場」と
「芸術として挑戦する場」を分けていないことでした。
ダンスシンドロームには、
Everybody Dance のように、
週に一度楽しく踊る場があります。
その一方で、もっとやりたい人には、
次の道が開かれています。
技術を身につけたい。
振付をしたい。
舞台に立ちたい。
そうした人に向けた場があります。
その一つが “iCreate” です。

David によると、“iCreate” は、
知的障がいのあるダンスリーダーや
アーティストが前に立ち、
自分の声や関心を中心に
作品をつくるプロジェクトでした。
周りのダンスアーティストは、
代わりにつくるのではありません。
支えながら、一緒に進めます。

「iCreate は、一人の人を前に立たせ、
その人自身の声が聞かれる機会を
つくるためのものでした。
共同で進行するダンスアーティストの役割は、
その人を支えることにあります。
でも作品の主導権は、
その人に返していくのです。」

ここで大切なのは、
支援をなくすことではありません。
支援を残しながら、
主導権と声を本人に返していくことでした。
また David は、
高い水準を目指すことも
大切だと話していました。

「高い水準を目指すことはできますし、
そのために必要な支えを用意することもできます。
障がいがあるからといって、
簡単でよいということにはなりません。
努力は必要です。
ただし、その努力ができるように、
周囲が支えることが大切なのです。」

これは、無理をさせることではありません。
でも、最初の動きやアイデアだけで終わらせず、
その人の表現をもう少し先へ進めていくことはできる、
と考えていました。

外部の振付家が入るときも同じです。
大切なのは、芸術的な考えをすぐにあきらめることではなく、
別の方法を探すことでした。

「大事なのは、芸術的意図を変えないことです。
もともとの意図は何だったのかを確認し、
それを実現するために別の方法を探します。
たとえばフロア・ムーブメントが難しければ、
立ったまま手の動きでその意図を表せるかもしれない。」

ここに、ダンスシンドロームの強さがありました。
インクルーシブであることは、
芸術的なハードルを下げることではありません。
作品の意図を保ちながら、
今ある体や関係の中で、
どのように実現するかを考えることでした。

リサーチメモ

ダンスシンドロームでは、
参加の場と育つ場が、
つながっています。
楽しく踊るための入口がある。
その先に、
教える、
踊る、
振付する、
ツアーに出るなど、
いろいろな役割がある。
でも、それは全員を同じ道へ
進ませることではありません。

一人ひとりを知ること。
その人がどこへ進みたいのかを聞くこと。
必要な時間と関係をかけて支えること。
それが大切にされていました。

問いは、
「どのように参加してもらうか」で終わりません。
「参加の先に、どのような役割や挑戦をつくれるか」
にまで広がっていました。

ダンスシンドロームの実践は、
個人を深く知ることと、
高い芸術的な挑戦を両立するためには、
関係、時間、そして主導権の渡し方が
大切だと示していました。