インタビュー | アイキャンダンス

自分自身から他の人へ、そしてコミュニティへ
──関係を育てるためのダンス

話を聞いた人:Juliet Diener (Founder and Chief Executive Officer),
Ourania Sitra (Young People’s Site Team Lead | Head of Programmes)
実施日:2026年2月28日

アイキャンダンスは、
障がいのある子どもや
若者のための活動を行っています。
その土台にあるのは、
ダンス/ムーブメント・サイコセラピーの考え方です。

ここで大切にされているのは、
ダンスの技術を身につけることだけではありません。
気持ちが安心できること。
そして、人との関係を育てることです。
アイキャンダンスでは、
これらが一度に起こるものとは考えていません。

まず、自分自身を感じること。
次に、他の人と出会うこと。
そして、少しずつグループや
コミュニティへひらいていくこと。
そのための関係を、
ダンスを通して少しずつ育てていく場
としてつくられていました。

関係からつくるモデル
まず自分を知り、そこから他の人とつながる

アイキャンダンスが
自分たちの実践を説明するときに
よく使っていたのが、
「関係を土台にしたモデル」 という言葉でした。

これは、関係づくりを
活動の中心に置く考え方です。
一年の流れや、セッションの進め方にも、
その考えが入っていました。

「私たちはこれを、
関係を土台にしたモデルと呼んでいます。
すべては関係づくりです。
いつも自分自身から始まります。
次に他の人、つまりダンスパートナーとの関係があります。
その先にコミュニティがあります。」

この考えは、
スタッフ自身にも向けられていました。
今の自分は、どんな状態なのか。
体の中で何が起きているのか。
まずそこを感じることが、
他の人と関わるための土台になると考えられていました。
見学の中で印象的だったのは、
大人のダンスパートナーが、
子どもたちを先に引っ張るのではなかったことです。

ここでいうダンスパートナーとは、
子どもや若者と一緒に関わる
スタッフやボランティアのことです。
大人が動きを教えるのではなく、
まず子どもの動きを受け取り、
その動きをなぞるように追いかけていました。
それについて聞くと、スタッフは、
ダンス/ムーブメント・サイコセラピーから来ている
方法だと話してくれました。

「人と人との関係は、
必ずしも言葉から始まるわけではありません。
体を使って相手を理解し、
感じ取ることができます。
ダンス/ムーブメント・サイコセラピーでは、
ミラーリングやアチューンメントと
呼ばれる方法があります。」

ここでのダンスパートナーは、
ただ助ける人ではありません。
子どもの体に寄り添うこと。
その動きを、
自分の体でもたどること。
そのようにして、
関係の土台をつくる存在でした。

だから、グループで活動していても、
一対一の関係が大切にされていました。
まず、
「自分の動きや自分の存在が受け止められている」
と感じられること。
それが、コミュニティへ入っていく入口になっていました。

挑戦の前に、安心をつくる

アイキャンダンスが何度も話していたのが、
気持ちの面での安全性でした。
障がいのある子どもたちは、日常の中で、
不安や緊張を感じやすい経験をしていることがあります。
だからこそ、「安心」は活動の前提として考えられていました。

「感情的な安全性は、いちばん最初の出発点です。
子どもが感情的に安全だと感じていないのに、
どうして挑戦できるでしょうか。
私たちは挑戦を促したい。
でもまず、その子の今の状態やペースを受け止め、
そこから一緒に少しずつ広げていくのです。」

ここでいう安心は、
動きを止めるためのものではありません。
むしろ、
子どもたちが自分のペースで
外へ向かっていくための支えでした。
そのために使われていた考え方が、
container(枠)containment(支えること) です。
チーム全体で枠をつくり、場を支えること。
自由に動けるけれど、
完全に放っておくわけではないこと。

たとえば、
輪の形で場をつくる。
踊る場所を決める。
休む場所を決める。
荷物を置く場所を決める。
そうすることで、
子どもたちが「自分は今どこにいるか」
を感じられるようにしていました。

「チーム全体で、
その空間を支えています。
私たちはフレームなのです。
今日どんな絵が生まれるかは分からない。
でも、その絵が立ち上がるための場を、
私たちは支えているのです。」
この「支えられた空間」は、
管理のためのルールではありません。

子どもたちが、
動くこと。
休むこと。
少し離れること。
また戻ってくること。
そうしたことが安心してできるための枠でした。

自由だけでもありません。
ルールだけでもありません。
その両方があるからこそ、
安心してグループの中にいられるようになっていました。

ダンスを通して、コミュニティをつくる

Juliet が話していたのは、
アイキャンダンスは、ダンススクールでも、
ダンスカンパニーでもない
ということでした。

その目的は、
ダンスの技術を教えることだけではありません。
作品をつくることだけでもありません。
ダンスを通して、人と人がつながること。
そして、コミュニティを育てることでした。

「私たちはダンススクールではありません。
ダンスカンパニーでもありません。
ダンスを使ってコミュニティを築いているのです。
子どもたちはここに留まり、ここで成長し、
ダンスを使って自分の物語を語っていきます。」

中には、10年、15年と
アイキャンダンスに関わり続ける子どももいるそうです。
その長い時間の中で、
子どもたちは、ただ何かを習うだけではありません。
自分がどんな人なのか。
何を感じるのか。
どう表現したいのか。
そうしたことを、少しずつ知っていきます。

小さいころから通っていた子が、
成長して若者になり、
また別の形で場に関わることもあります。
だから、セッションの基本の形は似ていても、
年齢やグループによって中身は変わっていきます。

家族との関係も、
このコミュニティの大切な一部でした。
保護者と話す時間。
フィードバックの場。
そうした機会を通して、
家族と一緒に子どもの変化を見ていきます。

アイキャンダンスでは、
保護者は、ただ送り迎えをする人ではありません。
子どもの安心や成長を、
一緒に支える存在でした。
ただし、中心にいるのは、あくまで子ども本人です。

家族の支えは大切です。
でも、焦点を当てるのは、
その子自身の希望や夢、
やりたいことでした。
最初は、
保護者が代わりに伝えることもあります。
けれど少しずつ、
本人の声へと近づいていくことが
目指されていました。

本人の気持ちを中心にしながら、
家族とのつながりも切らない。
そのバランスが、
アイキャンダンスのコミュニティを支えていました。

ショーは、祝う場であり、見える場でもある

アイキャンダンスにとって、
ショーは、ただの発表会ではありません。
一年の終わりに行う
イベント以上の意味がありました。
それは、子どもたちが積み重ねてきたことが、
見える形になる場です。
そして、自分の物語を家族やコミュニティに
届ける場でもありました。

「私たちは “celebration(祝うこと)”
という言葉をよく使います。
その子の存在や、その子らしさを祝うのです。
できないことではなく、
できることに目を向けたい。
だから、 “I Can Dance(わたしは踊れる)”
という名前にしました。」

ここでいう「祝う」とは、
ただ「よく頑張ったね」と言うことではありません。
その子がここにいること。
その子らしい表現があること。
その可能性が、
家族や周りの人たちに受け止められること。
それに近い意味でした。

同時に、ショーは挑戦の場でもあります。
人の前に立つこと。
拍手を受けること。
照明を浴びること。
いつもと違う劇場に入ること。
子どもによっては、
大きな負担になることもあります。
だからアイキャンダンスでは、
全員が同じ形で舞台に立つこと
前提にしていませんでした。

「全員が同じ形で舞台に立つわけではありません。
ある子は客席で見るところから始めるかもしれない。
ある子は舞台袖に立つだけかもしれない。
私たちは家族と一緒に、
その子が今どこにいるのかを見ながら、
段階をつくっていきます。」

大切なのは、
「出られる/出られない」
で分けることではありません。
その子にとって、
今できる参加の形を探すことでした。

いつもの場所で、ショーに近い体験をする。
そこから始めることもあります。
時間をかけて、
大きな舞台へ向かうこともあります。
アイキャンダンスは、
危険を避けることで機会をなくすのではなく、
支えながら挑戦の可能性を
広げようとしていました。

最初から
「危ないからやめる」とは考えません。
どうすれば、その子が経験を広げることができるか。
その問いが、ショーという場を支えていました。

リサーチメモ

アイキャンダンスが示していたのは、
参加の前に、お互いが
どのように出会うかを考えることでした。
それぞれの体を通して
関係をつくり始めること。
挑戦の前に安心をつくること。
ショーを、その人の存在や表現を
祝う場として考えること。
そのどれもが、関係の始まり方を
丁寧につくる実践でした。
ただし、この方法は、そのままどこでも
再現できるものではありません。

アイキャンダンスの場は、
ダンス/ムーブメント・サイコセラピーの
専門的な学びをもつスタッフを中心に、
スタッフやボランティアが支える体制で成り立っていました。
だから、創作やワークショップの場で参考にするときは、
その専門性や支える仕組みも考える必要があります。

それでも、
相手の体をどのように受け取るか。
安心できる空間をどのように支えるか。
家族やコミュニティとどのようにつながるか。
こうした問いは、
日本のワークショップや創作の場にとっても、
大きなヒントになります。

インクルーシブであることは、
参加できる人を増やすことだけではありません。
関係が生まれる環境を、どのようにつくるか。
アイキャンダンスは、
そのことを強く示していました。

団体リンク
https://icandance.org.uk/
https://www.instagram.com/icandanceuk/?hl=en
https://www.youtube.com/channel/UCeljqOmNtzBEGeDoJ0qL3jQ