このページの使い方
このページでは、英国におけるインクルーシブダンスの実践を、制度や理念の側からではなく、創作や日々の活動のなかで培われてきた判断や技術、関係のあり方から見ていきます。
焦点を当てるのは、文化政策や制度ではなく、現場に蓄積された実践知です。
誰が、どの場面で、どんな判断を引き受けているのか。どのような言葉が選ばれ、どのような時間がかけられ、どのように安全と挑戦が両立されているのか。そうした、作品や活動の質を支える“見えない骨格”に注目しています。
ここで紹介する英国の実践は、そのまま日本に移植できるモデルではありません。
むしろ、それぞれの現場で何ができるのか、何を問い直せるのかを考えるための手がかりとして、読んでいきます。
このページには、大きく2つの入口があります。
「実践のためのヒント」では、複数の団体の取り組みを横断しながら、現場で考えるための視点や工夫をテーマごとに整理しています。
「団体インタビュー」では、個別インタビューを行った7団体について、それぞれの活動がどのように続けられ、どのような考え方に支えられているのかを紹介します。
あわせて、より深く読みたい方のためのコラムとして、「翻訳の可能性」も置いています。英国の現場で使われていた言葉を手がかりに、日本語ではまだ十分に言い表せていない実践の厚みを考えるページです。
ここにあるのは、結論や完成されたモデルではありません。
自分の現場で何ができるのか、どこを問い直せるのかを考えるための入口です。
8団体の見取り図
AMICI Dance Theatre Company

大所帯のインクルーシブ・ダンスシアター
個を消さずにともにあることを核に、即興をベースとした作品制作とアウトリーチを長年続けてきた団体。共同性を大切にしつつ、最終的には舞台作品として明確に構成していく。
BLINK Dance Theatre

場の入り方そのものを組み替える拠点
「I Need ボード」やクリエイティブ・チェックインを通じて、創作の前に「何が必要か」を全員で共有する。会議、食事、日常、創作が切り分けられずにつながっている。
Stopgap Dance Company

長期雇用のカンパニー文化を持つ団体
ダンサーをフルタイムで雇用し、日々の稽古を積み重ねながら、異なる身体どうしが互いの動きを訳し合う独自の美学を育ててきた団体。アクセシビリティもまた、後から付け足すのではなく、作品や実践の構造そのものに組み込まれている。
DanceSyndrome

コミュニティを土台に育成と作品づくりを重ねていく団体
毎週の継続プログラムを土台に、アーティスト育成、ダンスリーダー育成、短期プロジェクトを並行して行っている。一人ひとりがどう進んでいきたいか、その意思と道筋をどう支えるかが、大きなテーマになっている。
icandance

1対1の関係性から出発するコミュニティ
相手の動きをなぞり、呼吸や調子を合わせながら、まず1対1の関係を築き、そこからグループやコミュニティへとひらいていく。安心していられることを土台に、子ども・若者・家族をつなぐ。
Magpie Dance

ダンサー自身の声を創作の中心に置く団体
ダンサー自身の経験やリサーチをもとに作品を立ち上げ、本人たちの声を社会に向けて押し出していく。安全や尊厳の問題は、創作の外側ではなく、そのプロセスの内部にある。
Candoco Dance Company

組織そのものを再編しているカンパニー
差異がダンスの美学を更新するという原点を保ちながら、今は障がいのある振付家やリーダーをどう支えるかを問い直している。作品だけでなく、意思決定の構造そのものも主題になっている。
Anjali Dance Company

知的障がいのあるアーティストが創作を導くプロフェッショナル・カンパニー
ダンサー自身を創作の主体として位置づけ、振付家を招いた作品制作やツアーを通して、その表現を舞台作品として磨いてきた。
※Anjali Dance Company は、今回のリサーチの中で参照した重要な実践のひとつですが、個別インタビューは実施していないため、「団体インタビュー」には含めていません。
この8団体の活動は、インクルーシブダンスが、作品創作、場づくり、教育、家族支援、アクセシビリティ設計、組織再編といった複数の層にまたがる、きわめて多様な実践であることを示しています。
そのうえで見えてくるのは、各団体が同じ役割を担っているわけでも、同じ地点に立っているわけでもないということです。長い歴史をもつカンパニー、日常に根ざしたホームベース、育成と次の役割を支える継続プログラム、組織再編を通して意思決定の構造を問い直す実践など、それぞれが英国のインクルーシブダンスの生態系の異なる場所を担っています。
だからこそ重要なのは、単純な制度比較で終わることなく、実践の現場において、誰が・どの場面で・どんな判断を引き受け、どのような条件を整えているかを丁寧に見ていくことです。
これ以降のページでは、各団体が組み上げてきた判断の骨格を、「実践のためのヒント」と「団体インタビュー」の往復のなかでたどっていきます。
クレジット
リサーチディレクション・取材・編集・執筆:呉宮百合香(DEZAR inc.)
取材調整・記録撮影:高嶋柚衣(LAND FES)
現地通訳:倉沢麻里江
アクセシブルな文章・ウェブ制作:松岡大(LAND FES)
主催:特定非営利活動法人LAND FES
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成 芸術創造環境の向上に資する事業【長期助成】]、大和日英基金






